「既存の一律教育を続けるべきか?」と悩む人事担当者へ
「これからは自律型人材の時代だ」「一律の研修はもう合わないのではないか」こうした声を受けて、教育体系を見直すべきか悩んでいる企業担当者は少なくありません。
- 研修をやっても受け身に見える
- 試験を受けさせても現場で活きている実感がない
- かといって自主性に任せると学習が進まない
どちらを選んでも不安が残る——。
これは多くの企業が直面している「人材育成戦略の分岐点」です。
迷うのは教育の「目的」と「手段」が混ざっているから
この議論が混乱しやすいのは、教育の目的と手段が整理されていないからです。
というイメージ論で語られがちですが、どちらも本来は「手段」です。
問うべきなのは、「どちらに切り替えるか」ではなく、「どの順番で」「何のために使うか」です。
教育体系とは何か? ― 組織の“偏差値”を揃える仕組み

教育体系とは、組織として必要な基礎水準を揃える教育設計で、イメージとしては学校で受けてきた授業のようなものです。
具体的には、会社が主導して①階層別の集合研修、②指定テキストでの学習、③必須試験の受験をさせるなどが該当します。
こう聞くと、昔ながらの古いイメージだと思うかもしれません。
しかし、一律の教育体系を実施することは、「この組織の、この階層の行職員は、基礎レベルが〇〇である」と説明できる状態をつくることです。
言い換えると、行職員の“偏差値”を揃える仕組みとも言えます。
そして、この制度があることで、組織内に次のようなメリットが生まれます。
- 誰が担当しても一定水準の対応ができる
- サービスが安定する
- 組織としての信頼が保たれる
一方で、体系教育には行職員が学びに対して「受け身」になりがちだというデメリットがあります。
自律型人材とは何か? ― 個々人の強みを伸ばす育成方法
一方で、自律型人材とは、個人が主導して「強みや志向を軸に成長する」方法です。イメージとしては、大学の総合型選抜(旧AO入試)に近いかもしれません。
- 組織が求める人物像を明確にして採用する
- 本人の強みや志向を見極める
- 本人が得意分野を深める
つまり、「全員を同じにする」のではなく、「個人の違いを活かす」育成方法です。
多様な人材が存在するということは、変化への対応に強いということでもあります。そのため、AIの進化や専門性の高度化が進む今、このアプローチは確実に重要性を増しています。
若手行職員にいきなり自律を求めるリスク

「自律型人材育成が重要なら、最初から本人に任せればいいのでは?」と考えたくなりますが、ここには落とし穴があります。
なぜなら、入社直後の若手は、①組織の全体像を知らず、②仕事の基準も知らず、③自分の適性も把握していません。そのため、入社直後から自律型人材育成をするのは、学生に対して「将来何になりたい?」と聞くのに近い状態です。
選択肢を知らない人に自律を求めても、それは「自由」ではなく「放置」になりかねません。
では、教育体系と自律型人材育成はどちらがよい?
結論から言えば、どちらが良いか、ではありません。「教育体系=土台づくり」であり、「自律型学習=強みの伸長」と、役割が違うのです。
例えるなら、教育体系とは会社が「キャリアの地図」を見せることであり、自律型学習とは「進むルートの選択」を行職員にさせることです。
地図がなければ進む方向に迷います。一方で、地図だけを渡しても個性は生まれません。

だから若手行職員には教育体系が必要
若手に一律の教育体系を行う意義は、単なる知識習得ではありません。その目的は次の4点です。
- 組織のルールを覚えさせる
- 組織の考え方を把握させる
- 業務の意義や目的を理解させる
- 業務に必要な基礎知識を持たせる
重要なのは、これらを通じて初めて、行職員本人が「自分の得意・不得意がわかる」ということです。土台がなければ、「何のスキルを伸ばしたいか・どのようなスキルを磨くべきか」を具体化できません。
そのため、結果としては、基礎を踏まえたうえで強みを伸ばす方が、キャリアの近道になります。
しかし、ここで、こんな声が上がるかもしれません。
「私は最初の配属がシステム部なので、金融法務の知識は必要ないですよね?」
一理あるように聞こえますよね。ですが、本当にそうでしょうか。
例えば、優れたSEやプログラマーであっても、設計するシステムを使う組織のルールや業務フローを理解していなければ、本当に現場が求めるものはつくれません。
金融法務の知識は、将来法務部に異動するためのものではありません。金融機関という組織がどのような責任を負い、どのような前提で業務を行っているかを理解するための基礎知識です。
業務の背景を知らずに専門性だけを磨くと、部分最適はできても、全体最適にはなりません。だからこそ、土台としての教育体系が必要なのです。
経済法令研究会の提案:段階設計という考え方
私たちは、人材育成を「どちらか」に振り切るのではなく、段階設計で考えることを提案します。
■第一段階:若手期は一定の教育体系中心
- 組織内外の共通言語を持たせる
- 「金融基礎力」で基礎水準を揃える
- 判断材料を増やす
■第二段階:中堅以降は自律型学習を拡張
- 専門性の深化
- 得意分野の強化
- キャリア志向に応じた選択
この順番を守ることで、組織の信頼性だけでなく、個人の成長やモチベーションの向上の両立が可能になります。
まとめ|人材育成は「切り替え」ではなく「組み合わせ」
一律の教育体系と自律型人材は対立概念ではありません。
大切なのは、「若手に何を与えるか」「どの段階で選択を広げるか」「組織としてどんな人材像を描くか」という教育設計を構造で捉え直すことです。
もし上司が人材育成の方針ついて悩んでいるようであれば、添付の簡易チェックシートなども用いて、自組織ではどのような運用が向いているか、話し合いの参考にしていただければと思います。「まずは土台として基礎力を鍛え、それから個人の成長を支援する」それが、安定と進化を両立する人材育成戦略への第一歩です。





